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質素ながらも、自然とうまく折り合った生活。
風情のある、癒しの極みともいえる日本の伝統や文化は、その中から生まれてきました。
時代が進むにつれ、洋風化され、デジタル化されていく私たちの生活。逆に世界では癒し、健康などを求め、日本ブームになっています。
今、日本文化・和の心というのを改めて捉えなおす時なのかもしれません。
伝統的な和はもちろん、和洋風や現代の日本、外国の生活や心に溶け込み、育んでいるものまで、日本、外国双方の視点で考えていきたいと思います。
そこには、伝統的な和の心を取り入れつつも、今の日本の良さ、心も大切にしていきたい。そして日本に、世界に常に新しい日本の文化を発信していきたいという思いがあります。 今回は、NYで20年近く暮らした経験をお持ちの『Harper's BAZZAR』日本版の編集長・伊藤操氏をお迎えし、ご自身がNYで出会い、感じた「和・日本」をお話いただきます。


「どんな豪華でおしゃれな花束や料理よりも、私に癒しを与えてくれるもの。
それは、一杯の味噌汁。一輪の椿」。


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― 伊藤さんがNYに行かれた80年代というのは、日本ブームが始まったころだと思うのですが、実際住まれていてどう感じましたか?

私がNYに住み始めた80年代初め、日本経済は円高がはじまり、バブル期でした。円高になるということは、日本が経済的に認められた存在になったことを意味します。時期を同じくして、ファッション業界では、コム・デ・ギャルソンやヨージ・ヤマモト、イッセイ・ミヤケが、これまでのファッション業界を覆すような、全く新しいスタイルの服を次々に発表していきました。西洋の洋服文化・概念を否定したデザインで、しかもそれが洗練されたものであった。彼らの登場により、日本人デザイナーへの注目度も非常に高くなったように思います。
また、アメリカの日本食ブームの始まりも80年代からだったように思います。ヘルシー志向の考えが根付いてきたのですね。ただ、今と違うのは、その頃の日本食といえば日本人経営のちゃんとした日本食レストランのことであり、“日本食は値段が高い”上にあまり馴染みのない食べ物でしたから、一部ビジネスマンや中流以上の家庭以外にはあまり手の届かないものでした。


― 外国で日本文化というと、「GEISHA」「SAMURAI」といった古典的なイメージを持たれているように思うのですが。

もちろん、それはありますよね。でも、私たちも同じではないでしょうか?アメリカといえばイメージするものはカウボーイだったり、インディアンだったり…。
昨年、ハリウッド映画「SAYURI」が公開されましたけど、すごくきれいに日本文化を描いていたように感じました。そして、日本の文化が映し出されているのに日本人にとってすごく新鮮に感じられる。
私の友人にアジアアートのコレクターがいるのですが、その友人宅にお邪魔した時、今まで見たことのない日本文化に触れました。

例えば、ベッドカヴァーのかわりに着物を置いたり、飾ったりする。ジャグジーのお風呂につかりながら日本庭園を眺める、など型にとらわれない、彼ら独自の感性で東洋と西洋の文化を楽しんでいるのですね。しかも、バランスが上手にとれていて。
馴染みのある日本のものが、すごく新鮮なものに見えました。

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伊藤さんが住んでいたNYのアパート NYで習っていた生け花

そんな風にアメリカ人がうまく和を取り入れているのをみて、日本にいたときはあまり興味のなかった日本文化に興味を持ちました。それで、NYにいる時に“いけばな”を習い始めました。
NYにいると日本の花があまり手に入らないので、洋風な花とミックスさせていけていくのですけど、自然に和洋折衷なアレンジメントになるのです。いける花瓶も同じですよね。洋風なものだったり、和風なものだったりと「“いけばな”だから」といった概念にとらわれず、自由に双方の文化を取り入れることが自然と出来る。とてもおもしろいな、と感じました。
今日持ってきた花瓶は、NYのSOHOで買ったものですが、一見和風でもmade in Parisです。NYにいると文化の交わりあいが当たり前で、エッセンスを共有できるというか、一つの考え方に縛られませんね。


― なぜ、日本にいる時には日本文化に興味が持てなかったのでしょうか?

なんでこれまで日本文化に興味がなかったのかな、と考えると身近になかった、感じられなかったからかもしれません。
というのも、日本のではせっかくいい掛け軸や絵画があってもそれを飾る壁がない。マンションも含めて、現代の日本の家というのは空間貧乏なのだと思います。
それは、床面積じゃなくて、天井の高さや壁の面積の問題で。例えば、昔の日本は布団に寝て、ちゃぶ台でごはんを食べて…と目線が低い生活だったから、天井が低いこととか気にならなかった。布団やちゃぶ台など片付ければ、空間を広げられることが出来たのです。でも今は、壁は家具に埋め尽くされ、椅子に座る習慣で、生活目線も高くなったのに、天井の高さは変わらない。
 残念なことに、文化を楽しむ空間がありません。それを楽しめる空間を持てるのは一部の上流階級の人たちに限られてしまうのではないでしょうか。
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― では、実際日本文化に触れ、感じた良さというのは何ですか?

「癒し」でしょうか。
レストランやブランドショップへ行った時など、すごく豪華なフラワーアレンジメントが飾られていたりします。
私は花が好きなので、それに対して美しさを感じ、感動するのですが、たくさんの花は常に見ていたいとは思わないのですね。その一瞬で感じる美しさで充分。それよりも部屋に飾る一輪の椿が、私の心を満たしてくれる存在になります。
同じようなことが「食」に関しても言えます。
外国で、もしくは外国から戻ってきて日本食を食べると胃が癒されませんか?イタリア料理や中華料理、美味しいと思う食べ物はあるのだけれど、どれも癒しにはなりません。たった一杯の味噌汁に敵わない。でもそれはやはり、私が日本人であり、日本食で育ったからなのだと思います。
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― そうですね。「癒し」とは、育った場所、環境が大きく影響するものだと思います。日本文化の中で育っていないニューヨーカーを含め、外国の方々は、日本文化の良さをどこに感じていると考えますか?

「癒し」まではいかないまでも日本文化の「静謐(せいひつ)」「静寂さ」といったものを感じているのではないのでしょうか。
ファッションのことで言うと、80年代あたりまで、アメリカ人が好んで黒い服を着ることはあまりなかった。しかし、コム・デ・ギャルソンやヨージ・ヤマモトの服が世界で認められるようになって、アメリカ人も黒い服を着るようになりました。もちろん、川久保怜や山本耀司のデザインが洗練されていたということもありますが、それだけではありません。
今「Harper's BAZZAR」のサイトでweb小説を書いているのですが、その中で、
「黒は、静けさのシンボルのような気がするの。ニューヨークのような都会では、私たち静けさを求めているのよ。黒を着るということは、他人に対して私は今、静けさの中にいるから邪魔しないでという自己主張なのよ」
という言葉をスーザンというデザイナーに語らせています。その言葉通り、癒しや静けさ、無の場所を求めていたのだと思います。
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― 伊藤さんがNYで見つけた癒しや静けさを感じた場所はありましたか?

公園です。特にセントラルパークですね。
広大な敷地に広がる自然。そこで体感できる四季。春は花が満開に、夏は緑が生い茂り、秋は紅葉、冬は雪景色、と季節の表情、移り変わりを楽しめます。忙しい日常を離れ、自然の中でゆっくりと過ごすひと時は、心和み、癒されます。
今の時期、雪が積もった様は日本の水墨画のような世界で素敵ですよ。


― 「ゆっくりと」。デジタル化された生活の中で生きる私たちにとって、非常に大切なことであると思います。

そうですね。
今の時代、いろんな物事を短縮化しようとする傾向にあります。
「便利」「簡単」「早い」が重要視されています。
それに警鐘を鳴らしているのが、今のスローフードや食育という考えなのかもしれませんね。私たちの生活にとって、衣食住それら全て大切なのですが、私は特に「食」に重きをおいています。
「食」は人を育てます。人を育てるということに便利や簡単などないと思います。ファストフードや中食など、簡略化されたものばかりに頼るのではなく、手間ひまはかけて料理を作り、食べる習慣を忘れて欲しくはありませんね。
ゆっくりとした時の流れ、というのも日本文化の良さなのかもしれません。■
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060110_01_07.jpg ◆プロフィール
大学卒業後、フリーのスタイリストとして活躍。
1982年に渡米。
その後19年間、ファッションジャーナリストとしてファッションなど、
NYのアートシーンを日本に紹介していく。
2001年に日本版『Harper's BAZZAR』の編集長に就任。
著書に『ティナの贈りもの』(TBSブリタニカ)、
『Manage ダナ・キャランを創った男 滝富夫』(扶桑社)、
訳書 『ドクタージュディの明日元気になあれ』(マガジンハウス刊)あり。

http://www.bazaar.co.jp/
インタビューを終えて。
近頃、「LOHAS」にはじまり、「スローライフ」「スローフード」という言葉をよく耳にします。これらは総じて、「人生はもっとゆっくり楽しめばいいじゃないか」という趣旨の活動です。
日本には、今この概念こそが必要なのではないでしょうか?
スピードをこの社会の標準とすることをやめ、「癒し」という言葉だけに頼るのではなく、ライフスタイルを根本から見直していく。
癒し。そして、スローの概念。
そうした考えを上手に取り入れ、一人でも多くの人が生活の「質」や「豊かさ」、そして個々の人間性を重視する社会に近づくために、VFCでは「食」を通したライフスタイル提案をしていきます。


Text by Eri Kadono
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