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銀座の一角に静かに佇む、「le 6eme sens」。
この店に看板はない。代わりとなるのは、ワインボトルが壁のように並べられたワインウォール。
「おいしいワインをどうぞ」。
ワインウォールから聞こえてくる、そんな声に導かれ扉を開く。
オレンジの椅子が印象的な、カジュアルテイストのカフェ。
そして、その奥に広がるのは、やさしい光に包まれたダイニング。
人々の笑顔溢れる空間を通り過ぎ、迎え入れられたのは地下に位置するサロンだった。
限られた特別な時にだけ開かれる場所。
それが、本日の舞台だ。
数百本のワインに囲まれたガラス張りの空間は、まるでワインセラーのよう。
その中心にあるのは、羽でつくられたシャンデリア。羽の隙間からこぼれるやさしい明るみは、天使が舞い降りたかのごとく幻想的な雰囲気をつくる。
一瞬自分がどこに居るのかさえわからなくなってしまうほどだ。
版画家の山本容子氏によってプロデュースされた空間には、普段感じ得ない“神秘的な力”を感じることが出来る。
散りばめられたアートワークの数々から投げかけられる無言のサイン。
非日常的な空間の中で、徐々に私たちの感覚は研ぎ澄まされていく。

数年前から注目を浴び、人気を伸ばし続けているシェフズテーブル。
目の前でシェフのデモンストレーションを楽しみながら、料理を楽しむ。自分好みのオーダーを直接シェフに伝えられることから人気は広がり、予約待ちの状態が続く店も多い。
そのスタイルは様々。本場フランスでは、厨房の中や、厨房がガラス張りに出来ていてその横で料理を味わうスタイルが主流だという。格式高いフランス料理の世界だからこそ、普段は目にすることが出来ない裏舞台、厨房で食事を楽しんでもらう。それがフランス流のおもてなしなのだろう。
しかし、ガストロノミー・プロデューサーであるドミニク・コルビ氏の選んだスタイルは違う。
「le 6eme sens」では、サロンの隅に、独立した本格的な厨房が造られていた。
世界的に知られたフランスの有名店「ラ・トゥールジャルダン 本店」で副料理長を務め、「ラ・トゥールダルジャン 東京」のエグゼクティブ・シェフを経て、現在は「ホテルニューオータニ大阪」のフランス料理総料理長も兼ねるコルビ氏。
そんな一流を知り尽くした彼が選んだ“おもてなし”のスタイル。それがこの厨房だった。
コルビ氏は、こう話す。
「他のお店と比べたりすることはあまりありません。でも、私はこの部屋だけのための厨房を作りたかった。ここを利用してくれる人のための料理だけを作る厨房を」。 |
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「どうぞ、リラックスして料理を楽しんでください」。
コルビ氏の言葉とともに、ディナーの幕が上がった。
この日出されたコースは、アミューズ+5皿+デザートという流れ。フォアグラ、オマール海老、シャラン産の鴨肉などの極上素材に春野菜などを合わせた特別メニューが、ガラスや陶器で作られたオリジナルのプレートを彩る。一皿一皿全てが料理という枠を越え、芸術作品としてそこに存在する。
旬の食材を存分に取り入れられたコース・メニューは、ランチを含め毎月変わる。それは、メニュー作りに関して「まず食材選びにこだわり、そのおいしさをいかに引き出すかを常に考える」という、コルビ氏ならではのこだわりである。
もちろんこうしたシェフズテーブルの場合、お客様のリクエストを受けることも多い。時には、メニュー全てを変え“フォアグラづくし”“オマール海老づくし”なるコースを作ることもあるとか。
しかし、どんな料理を作っても変らないものがある。
それは、「料理を気楽に楽しんでもらいたい」という気持ち。料理に込められた思いが、彼の創り出す三ッ星級の料理をも家庭的なあたたかみのあるものに感じさせてしまう。
「どんなにおいしいものも堅くるしく食べたら、味わえません。時には冗談を交えたりしながら、リラックスしてもらうんです。“笑い”や“楽しいと思う気持ち”は、料理に更なるおいしさをプラスしてくれる魔法。しかし、気楽な雰囲気を出す、といっても提供する料理やサービスは一流のものだけです」。 |
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“一流”。その言葉には自信があった。料理はもちろんのことサービスにおいても、である。高級店そのものの完璧なホスピタリティ。しかし、それだけではない。完璧の中にも堅苦しさを感じさせない、まるで家にいるような居心地のよさがある。これが、ドミニク・コルビの作り上げるサービスのおもてなしである。
「Family」。
コルビ氏は、共に働くスタッフをこう呼ぶ。
「le 6eme sens」では、スタッフの面接もコルビ氏自身がし、一人一人へ思いを伝える。そして、
家族のように親しく、あたたかく、時には厳しい目を向ける。コミュニケーションが充分とれたスタッフ同士だからこそ生み出せる雰囲気を作り上げる。それは、厨房でもフロアでも変らない。
「ただ教えた通りに動くだけ、作るだけでは、お客様においしさは伝わらないのです。スタッフも仕事を楽しみ、本当においしいと思う気持ちを持たないと…。そのためにも、情熱を伝えたり、気持ちをまとめることは私の仕事なのです」。 |
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料理やワインが出される際は、それらに対する細やかな説明を欠かさない。ソムリエとともにワインのチェックも行う。そして、時にはキッチンへ私たちを招き「このソースは…」と、ちょっとした講習会が始まる。
食事をする時には、テーブルの側に立ち、巧みな話術でその場にいるもの全てを笑いとあたたかさで包み込む。おいしい料理とワインに添えられた笑顔。自然と会話は弾む。
“あたたかさ““リラックス”“楽しむ”にこだわった、尽きることのないおもてなし。
そのこだわりは、彼が料理を始めるきっかけとなった人物に由来しているだろう。
料理上手な、大好きなおばあちゃんである。
「子供のころ、日曜日には必ず家族が集まって祖母の料理を食べて過ごしました。楽しくて、いつも笑いが耐えないその雰囲気が好きでした。6歳の頃から祖母の手伝いをするようになり、料理に対する情熱を教わりました。料理には元気を与えたり、悲しみを和らげる力もある。多くのお客さんを料理で幸せにしたい。祖母にとって、私にとって、料理は生きる支えのようなものなのです」。

幼少期に彼自身が学んだこと。それは今彼が、力を入れている「食育」にも繋がっている。
小学校を中心にボランティア活動をしているが、時にはこのレストランも“子供たちの学ぶ場”へと変わる。お客様からのリクエストによって、お子様の料理教室を開催。
サロンを貸し切って、プロのシェフから受ける料理教室とは何とも贅沢である。記念日や特別な日だけに利用されているように思われるシェフズテーブルだが、子供のためのお料理教室にも出来てしまうのは、料理を作りながら、子供たちに食の楽しさや大切さ、食材の本来の姿を教える。彼が幼い頃、自然に体験したことを今の子供たちにも知って欲しいからだ。
「料理は人を幸せにする」。
確固たるエスプリを持つドミニク・コルビ氏だからこそ、出来るおもてなしのカタチなのかもしれない。

山本容子氏の作り上げた神秘的なアート空間の中で、最高級のフレンチを楽しむ。
まさに至福の一時である。
“食”というはかない存在。
そして、“アート”という永遠を志向する存在。
共に表現されるものでありながらも相反するその二つ、
それらが合わさることで、五感をも超えた新しい感覚が生まれるのだろう。
ドミニク・コルビのおもてなしには、そんな研ぎ澄まされた感覚をやさしく包み込むようなあたたかさがあった。
どこかなつかしい、でも洗練された…。
「また行きたい」。
これこそ、最高級のおもてなしの証である。■
◆プロフィール
Dominique Corby(ドミニク・コルビ)
15歳の時にフランス料理の世界に入る。
トウールダルジャン本店(パリ)で副料理長を務めた後、ホテルニューオータニ東京内に出店しているトゥールダルジャン東京にて8年間総料理長を務める。現在ホテルニューオータニ大阪「sakura」料理長、「le
6eme sens」のガストロノミー・プロデューサー。テレビ・雑誌等でも活躍する、人気のシェフである。 |
Interview & Text by Eri Kadono |
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