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「まずお伝えしたいのは、私の仕事、つまり私の作品には“デザイン”と“アート”の二つがあることです」。
これが、開口一番、謝琳氏の口から発せられた一言だった。
デザイン。彼女は、雑誌やテレビなどから依頼を受けて作る作品をそう呼ぶ。アートではない、そのこだわりは強い。
「私の中で、デザインは、メディアを通すもの、見る人の立場に立って制作するものです。どういうものが楽しいか、求められているか。デザインの先にいる人たちの事を考えて制作します。アートや美術は、受け手云々というよりも自分の主義・主張の表現ですからテーマに対するアプローチの仕方は異なります」。
ただ、そこにも共通することはある。それは制作のプロセスだ。
「私の作品は、日常を切り取ったもの」と語るように、取り上げるテーマを身近なところに求める。お菓子やケーキといった食べ物や、唇や髪の毛といった体の部分が多い。
「デザインにはそれぞれ、それまでの流れがあり、背景があり、過去のデザインをプロトタイプにしながら、そこにオリジナリティや受け手に求められているものを加えていく。アートの場合も、その対象となるものの歴史を紐解くところから始まります」。
無からの創造はない。表現の向こうには、常にそれを形作るバックグラウンドが存在するのである。 |

少し前の話になるが、今年の2月に横浜で『食と現代美術part2―美食同源』というイベントが行われた。そこで、彼女が発表した作品のテーマとなったのが“ウェディングケーキ”だ。
ヴィクトリア王朝時代より、結婚式という人生の大きな舞台で用いられてきたウェディングケーキは、儀式の華ともいえる大切なアイテム。
その"幸せ"のイコンに彼女が感じ取ったのは、宗教的建造物の持つ“自己顕示欲”だった。
「原点としては、やはり砂糖という贅沢品、希少価値を盛大に振舞うところから来ているでしょうが、その意味が消え去った現代も、ケーキというシンボルは変わっていません。
中でも一部のウェディングケーキは、さらに誰よりも高くと、その原案となったゴシック様式の教会、大聖堂のごとく天へと伸びていくようになります。つまり、他者を圧倒するような、自己顕示欲の象徴ともいえるような、力を誇示するイコンとなりました。そこには、ウェディングケーキがお菓子としてよりも、教会などの宗教的建築物の持つ必然的な姿として存在することが現れています」。
「ウェディングケーキの持つ、繊細で優雅という“女性的”なイメージの裏に見え隠れする、人ならどこか持ち合わせる“男性的”な力や絶対的なものへの憧れを垣間見られること」への興味が、今回の制作へのきっかけとなった。
その考えには、日本を離れ、アメリカで暮らしたことが影響しているのだという。この作品は、帰国後初の美術作品である。
もちろん、アメリカ国家のアイデンティティや社会的要素の影響を受けたこともあるだろう。しかし、それだけではない。日本を離れたこと。このことが彼女の中で大きな変化へと繋がった。 |
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「アメリカでは無駄な情報から離れたことで、客観的に見られる、また見ようとする意識が出てきました」。
東京に生まれ、東京に育った彼女は、常に情報という渦の中に飲み込まれていた。止め処なく流れ込む情報の中を走り、走り続けた。
そして、情報から生み出されるものの空虚さを知る。
「情報ばかりを頼りにしていたら、何も新しい価値は生み出せません。頭でっかちになってしまうだけ。何かを知る必要は確かにあります。ただ、情報を追っかけて、知識を貯えるだけの生活は、あまり有意義な時間を過ごしていない証拠ともいえるかもしれませね。何かを作る、創るというのは、まず思考する自己こそが大事なはずですから」。
帰国後も東京ではなく、住まいを湘南へと移した。
海に程近く、自然に囲まれた暮らしには、東京では経験できなかった発見がたくさんある。海の音や虫の声、季節にあった旬の食材。心や身体、全てで日本の四季感じるそうだ。
「湘南くらいでは、東京とさほど変わりないですけど、ここでの自然に囲まれた生活も今後の作品にいきてくると思います。
今はまだ生活の中心が子育てのため活動を控えていますが、美術作品を創り続けていきたい思いは変わりません。以前とは違う感覚で、また作品に取り組めるのではないかと自分自身楽しみにしています」。 |
日常の中のちょっとした発見にこそ、アートやデザインのヒントが隠されている。
しかし、それに気づける人は少ない。
現代社会のような情報先行型の生活は、「気づく」「疑問に持つ」という感覚を鈍くしてしまうのかもしれない。
確かに情報は便利だ。しかし、情報は情報でしかない。
それを捨てる勇気が持てた時、私たちの日常は美しく色づき始めるだろう。 |
謝琳(しぇりん)
1967年東京生まれ。美術家。主な個展に「Mellow House」展
(1996年/デジタローグギャラリー/東京)、「デガージュマン」展 (1999年/スタジオ食堂/東京)。
主なグループ展に「Art Sweet Home (1999年/広島市現代美術館)
「ARTING 東京2001-生きられた空間・時間・身体」展(2001年/セゾンアートプログラム/東京)
「Tafelrunden」展 (2001年/Maximilliansforum /ミュンヘン)「ザ・ファーストムーヴ」展(2003年/P.S.1ニューヨーク)など。
「食と現代美術Part2」展(主な受賞に、「フィリップモリスK.K.アートアワード2002」大賞など。
かたや、お菓子に関する仕事にも携わる。広告、雑誌などへのケーキ製作、コーディネーションを中心に、現在は休刊中のマガジンハウス「Olive」でお菓子レシピとコラムの連載、著書に大和出版「おいしいお菓子の世界へようこそ」。最近の仕事として、工藤静香デザインのお菓子の家(日本菓子協会・製糖工業会)のスーパーバイザーなど。
2005年秋に3年間暮らしたL.A.より帰国。
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Text by Eri Kadono |
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