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「半年だけ。最初は、そういう約束でした」。
カルフォルニアワインの産地として名高いナパやソノマを中心に、醸造技師として活躍、高い評価を得ていたブルース氏が、ココファームを初めて訪れたのは、今から18年前のこと。「こころみ学園」の園長である川田昇氏の強い要望によるものだった。
依頼を受けた当初は、日本への興味は全くなく、断ったという。しかし、幾度にもわたるアプローチを受け、ついにはココファームの担当者が、ブルース氏に会いにサンフランシスコまでやってきたことを受け、来日を承諾した。
「ナパでのワイン作りで充分満足していましたし、何度もお断りをしていたんですが、しつこくて(笑)。サンフランシスコまで会いに行くから話しを聞いてくれと言われ、話くらいなら、そう思ったんです。今考えるとそれが、失敗でしたね。気づいたら18年経っていました」と笑う。

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始めの2、3年は、カリフォルニアと足利とを行ったり来たりしていた。しかし、徐々に日本への滞在期間は長くなり、気づけばココファームの醸造責任者として腰を据え、流暢な日本語を話すまでになった。
「障害者の人たちのワイナリーとは知らなかったので、来た当初は驚きましたし、不安も感じました。でも、黙々と一生懸命働く園生、それを厳しく、やさしく支える学園の職員の人たちの姿を見、このワイナリーで「本物のワイン」「最高のワイン」を作りたい、そう思うようになったんです」。


こうして、文化も、言葉も何一つわからない日本でのワイン作りが本格的にスタートした。始めは、ワイン作りはおろか、コミュニケーションをとることすら困難だった。しかし、ブルース氏は挫けなかった。同じように、学園の人々も諦めることはなかった。衝突や失敗を繰り返すこと11年、足利の小さなワイナリーに1つの転機が訪れる。
転機 ―。2000年に開催された、沖縄サミットの乾杯で、ココファームのスパークリング・ワイン「NOVO」が用いられた。これは、ココファームの名を一躍全国区に、世界へと広げる出来事となった。
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NOVO


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何でも「こころみ=試み」ること。それが、こころみ学園のモットーであり、ブルース氏のこだわりである。そして、そのこだわりは、そのままココファームのワインの特徴ともなる。もちろん、その「こころみ」がNOVOを生んだ。
まず、ブドウへのこころみは、その栽培種の多さから伺える。ココファームでは、ワイナリーの周りに3ha、カルフォルニア・ソノマに5ha、そして赤城、熊谷、山形、長野、勝沼や北海道で契約栽培をしている。「100%日本のブドウで、日本の風土に適したものを」というポリシーに基づき、日本独自のブドウを多く用いてワインを醸造。その品種も多岐に渡る。

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斜面上部から、マスカット・ベリーA、リースリングリオン。前者はトップ・キュベ「第一楽章」、後者は沖縄サミットで振舞われた、スパークリング・ワイン「NOVO」に用いられるブドウだ。そして、中部にはノートン、タナ、カルベネ。下部に甲州、生食用が栽培されている。
ノートンはアメリカ系のブドウで、ヴィティス・エステベイラスというジャンルに属する。ミズリーやヴァージニアなど、日本と似た湿気の多い気候を持つ地域でポピュラーとされていたブドウであり、ブルース氏が数年前から実験的に育てている。
もう一つ、ブルース氏が新たなこころみとするのは、タナ種。フランスのマディランが特産とされ、タンニンを由来とするため、色濃く、濃厚な風味を出す。「このタナの特有の味わいがココファームのワインに新たなアクセントを与えてくれる」とブルース氏はそのポテンシャルに目を光らせている。

国際的に知られたブドウを無理に育てていくのではなく、より環境にあった場所を探してあげる。こうしたこころみに、どこかこころみ学園の存在を感じる。

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そして、ワイン作りのこころみ。それは、園生による手作業でのワイン製造であり、ココファーム最大の「こころみ」である。
「いいワインは健全で完熟したブドウから造られる」と、ワイン作りの肝ともいえるブドウの選定にはこだわりをみせる。収穫は出来るだけ遅らせて、完熟を待つ。そして、全て手摘みでブドウを傷つけないよう収穫、再び選定へとまわす。収穫量は二百数十トン。気の遠くなる数だが、その作業を全て、園生は自分たちの「手」や「足」、「目」で行う。
「ココファームと他のワイナリーとの最大の違いは、やはり全て手作業であるということです。農薬を極力使わず、ブドウを傷つけないために機械にも頼りません。
そのため、夏から秋の収穫時期、園生は毎日畑へ出かけ、病気の原因になる傷んだ実を、ひとつひとつ取り除き、残った房に傘をかけ熟すのを待ちます。草刈りやカラスの追い払いも欠かすことはありません。そして、収穫したブドウをまたひとつひとつ選別していきます。園生の存在、そして自然の力と人の力が合わさって出来た、健康で完熟したブドウがあって始めて、私はワインを作ることが出来るのです」。
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園生の作業風景


ブドウの栽培、収穫だけではない。瓶詰めや瓶詰めしたワインのチェックもまた、手作業で行われる。NOVOに至っては、ティラージュやルミュアージュ、デゴルジュマン、ドサージュ、ブーシャージュと、醸造過程の殆どが手作業となる。
「変な言い方かもしれませんが、一人一人の障害に合った仕事がここにはあります。大変な仕事であればあるほど、不思議と園生の目はキラキラと輝くんですよ」とブルース氏は語る。

こころみ学園とブルース氏が、我が子のように、大切に育て上げたワイン。口にした人を温かな気持ちにさせる不思議な味わいと確かな品質で、今やトップクラスの日本ワインとして認められている。
地元・足利市の特産品にも指定され、ワインを通して園生と地元の人との交流も進み、毎年11月に行われる収穫祭には全国から2万人もの人が訪れる足利を代表するお祭りにもなっている。



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現在の生産量は18万本。
もっともっと多くの人にココファームのワインを楽しんでもらいたい、という思いは強いが、これ以上広げることはないという。
「手作業にこだわるからこそ、ココファームのワイン」であり、そこには、「障害者の自立支援のため」というココファームの本来の目的を見失わないという強い姿勢が伺える。
「ひとつひとつのワインに愛情込めて作りたい。私たちは“wine maker”じゃない、“wine grower”なんです」と、最後に付け加えたブルース氏。

「ワイン」を共通語に世界に橋を掛け、私たちの心も和ませ芳醇にしてくれるブルース氏は、人生の醸造家ともいえるだろう。

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■ココ・ファーム・ワイナリー
〒326-0061 栃木県足利市田島町611
tel.0284-42-1194  fax.0284-42-2166
http://www.cocowine.com/

■ブルース・ガットラヴ氏
1961年12月18日ニューヨーク生まれ。コーネル大学時代に選んだワイン鑑賞のクラスをきっかけにワインに関する仕事に携わるようになり、1985年カリフォルニア大学デービス校に入学、マスターコースを終了後は、カリフォルニアの名だたるワイナリーでワインつくりの腕を磨く。その後は実績を買われてコンサルティング醸造家として、アメリカ合衆国をはじめ、世界中で活躍。
1989年、日本のココ・ファーム・ワイナリーに招かれ、現在、ココ・ファーム・ワイナリー取締役醸造責任者として、ワインに関する広範な知識や世界的ネットワークを生かしながら、知的な障害を持つ仲間とともにワインづくりにあたっている。
(「ココ・ファーム・ワイナリー」ホームページより抜粋)



Text by Eri Kadono
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