芸術学者のS・K・ランガー氏が、「芸術は技術である。それは本然の人間的感情を打ち出して、視覚、聴覚、または、想像力を通して知覚できる形式を創造することを目的とする技術である」と、著書『芸術とは何か』で述べていたことにも似て、料理を芸術へと昇華させることが出来るのも、高い技術を持つ限られた人間のみができる。ジャック・ボリー氏は、まさにその一人だった。伝統にこだわるボリー氏の料理により、ロオジエを訪れる人たちは皆、フランスよりもフランスらしい美の体験をすることが出来た。 そして、そのジャック・ボリー氏よりロオジエを継ぎ、変わることなくその地位を守り続けているのが、現在、エグゼクティブシェフとして腕を振るうブルーノ・メナール氏だ。彼もまた、類まれなる技術を持つ一人である。
メナール氏の料理は、伝統に忠実なボリー氏とは違い、「ネオクラシック」というスタイルをとる。「料理にはそれを食べる人が存在し、そこには時代と流行があります。ネオクラシックとは、新しさと伝統が同時に存在する料理。もちろんボリー氏同様、伝統に忠実になることが基本となりますが、ゲストの好み、時代の嗜好にあわせ、伝統的なフレンチの技法を使い、繊細さとモダンさをあわせたスタイルです」と、メナール氏は語る。 そして、こう付け加えた。「何よりも五感で楽しめる料理であることにこだわっています。お客様には、味覚、視覚…全ての感覚や感性で料理を楽しんでいただきたいですね」。
実際の料理を前にすると、なるほど全てに納得がいく。皿上に存在するのは、何とも繊細で、美しい、名画のようなフランス料理だ。しかし、古典的料理の重い味わい、暗い色調に比べ、まばゆい軽やかさと明るさを持つ。若々しい色調、自由なドローイングで表現されたソースと色彩のコントラストは、時に抽象画を思わせる。そして、ラングスティーヌのロティをカカオのフレーバーに仕上げるといった、素材の組み合わせの妙、意外性……、まさに「モダン」「ネオ」という言葉こそがふさわしい、清新の気がある。 「料理はお客様に感動をもたらすものでなくてはならない」というメナール氏の言葉通り、 その料理との出会いは、実に新しく、何とも表現しがたい昂ぶりを感じずにはいられない。
独創的、斬新。しかし、彼の料理は驚きによる感動、それだけではない。「モダン」でありながらも、誰もが「フランス料理」と分かる装いと味わいがある。 おそらく上質と呼ばれる料理には道があるのだろう。食文化はもとより、その食を愛する者たちの誇りや美意識が凝縮された味覚が、新しい時代の料理の礎になる。フランス料理という世界に誇る食文化、そして、その伝統を極めて忠実に守りぬくジャック・ボリー氏。そして、彼の料理を愛する者たちによって築かれたロオジエの道。そんな道に裏づけされた斬新性が、メナール氏の料理なのだ。 料理にカカオを使うのも、故なしではない。メナール氏の父親は、フランスでも有名なショコラティエなのである。彼の中には確実に、ショコラティエの血が流れている。そこにまた、道の存在を感じる。
レストランへは1200ccのバイクで向い、休日にはマウンテンバイクやジョギング、ギター、絵画を楽しむという。44歳という年齢も、料理人としてはまだ若い。 「自分の夢を叶えるために、東京に、ロオジエに来た」とエネルギッシュに語る、ブルーノ・メナール氏が、今後、ロオジエにどんな道を作り、次なる世代へ残していくかが楽しみである。