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私は、もともとアメ細工を得意とし、コンクールもアメ細工が中心だったのですが、次第にチョコレートの魅力に惹かれていきました。今では私にとって、一番興味深く、おもしろい食材ですね。
チョコレートの魅力。それはまず、日本の食文化に馴染みがない食材ということです。10年前はチョコレート1粒に数百円出すなんて考えられなかったし、男性が進んでチョコレートを買いに行く習慣もありませんでした。数年前からブームになり、徐々に食文化に定着しつつありますが、まだまだこの先発展していく食材といえるでしょう。

また、加工していく中でのチョコレートの魅力、というのもありますね。チョコレートを扱う上で、テンパリングという作業があるのですが、これがおもしろい。チョコレート中のカカオバターは、T型からY型まで6つの結晶型を持っていて、テンパリングは温度調節をしながらその結晶型を変化させる作業です。結晶型を微妙に変えることで、チョコレートはピエスモンテのような巨大建造物にも、ボンボンショコラのような繊細なものにも多様に変化します。加工しなくても美味しく食べられる食材ですが、手を加えれば加えるほど変化をしていく。お菓子の中でも珍しい食材であり、知れば知るほどその奥深さに引き込まれていきました。


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そのチョコレートを使い、私が作るのは「楽しむお菓子」と「戦うお菓子」。「楽しむお菓子」とは、通常お店などで販売しているものであり、「戦うお菓子」とは、コンクールに出品するピエスモンテなどです。どちらも「お菓子」であることに変わりはないのですが、「戦うお菓子」では、特に見た目が重要になってきます。いかに人を惹きつけるかという魅せ方、つまりデザイン性が問われます。
私は、まず技術からデザインを発想します。得意分野で、なおかつ勝てる技術をピエスに落とし込む。そこにコンクールには欠かせないテーマを融合させる。すると、自然とデザインは出来上がります。テーマから発想するのではなく、あくまで技術ありき。技術を自分のものにしていればしているほど、パワーは強くなり、製作者自身のカラー、個性となってピエスモンテに現れますから。


WPTCで私が選んだ技術は、「造形」です。フードプロセッサーの摩擦力で粘土状にしたチョコレートを、瞬時に動物などへと形作っていきます。通常チョコレートで造形というと、伸ばして、流して、型にはめて作るものなので、粘土のように造形する方法は驚かれますね。これは私のスペシャリテとも言え、この技術でピエスモンテを作ると必ず「和泉のピエスだ」と言われます。
その「造形」の技術と「陰」というテーマ(全体テーマは「陰と陽」)を合わせ、生まれたデザインが土台の"蛇"と頂上の"カラス"でした。あとは、そのイメージをデフォルメし、カタチにしていきます。そこからは建築と同じ。バランスを考えながら組み立てていく作業です。コンクールは失敗が許されないので、確実に組み立てられる理論がかなり必要になります。
イメージという部分での感性、技術という部分での理論。その2つがうまく組み合わさった時に最高のピエスモンテが出来上がる、私はそう考えています。

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しかし、忘れてはならないのは、「戦うお菓子」も「楽しむお菓子」同様、食べ物であるということ。そこに、パティシエとアーティストとの違いがあります。ブリキを使ってアートを作る人もいれば、粘土を使ってアートを作る人もいる。ピエスモンテを作り始めて、様々なアーティストの方々と知り合う機会が増えました。彼らは私を「チョコレートを使ったアートを作る、アーティスト」と位置づけます。しかし、私はピエスモンテをアートとは捉えていません。食べ物の延長線上にあるのがピエスモンテであり、工芸菓子です。あくまでも「お菓子」なんです。そのため、デザインにおいても、素材が食べ物なのでパーツパーツ、その食材の特性を生かしたものにしていくことも重要なポイントとなります。

私の考えるピエスモンテとは、「作る」、「魅せる」、「食べる」が共存したもの。どれが欠けても表すことは出来ません。お菓子の核となる「味」をつくる技術の基礎があり、その先にあるのがピエスモンテ・・・・・・・そういう発展の仕方がおもしろいですね。
WPTCでは、味覚部門でも高い評価をうけたので、私にとっては満足のいく結果となりました。

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今回優勝したフランスと日本の違いの1つは、パワーです。
日本人の作るお菓子やピエスモンテの方が繊細できれいなのですが、一歩引いてみると、そのパワーや訴える力というのは、圧倒的にフランス人のほうが強い。そこが敗因の1つだと思います。見かけの繊細さや粗のなさでは日本人がピカイチ。ただ、だからこそ逆にまとまりすぎてしまい、迫力に欠けてしまう。そういう部分は、欧米から学ぶ必要がありますね。日本人は、造詣させてもうまい、何作らせても上手。伝統的な欧米とは違い、革新的な作品を作り出す。日本は世界ナンバーワンになれる実力を持っているはずですから。
それは世界もわかっている。だからこそ、コンクールでも日本へのチェックの目は、粗探しのように厳しいんですけどね(笑)。

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製菓業界にまだまだ色濃く残る欧米主義。その中で、日本はようやく認められる存在になってきました。そして、そんな日本を皮切りに、今、アジアの製菓技術は急速に伸びているように思います。特に韓国や台湾の成長は目覚しいです。ただ、1つ言えることは、全体的にアジアンカラーが強く出る傾向があります。
まだまだ遅れていますが、日本以上のスピードで伸びていることは確かです。私を含めてですが、これから後輩たちには欧米だけじゃなく、近隣のアジアにもこれからは目を向けていってもらいたいですね。


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私にとって「戦うお菓子」がすべてではありません。しかし、「自分で一定の期間を決めて集中して取り組もう」、「それが世界に通用した時、自分自身に納得するんじゃないかな」、そんな思いからコンクールの世界へ足を踏み入れました。実際やり始めてみたらすごくおもしろくて、どんどんのめりこんでしまいましたけどね(笑)。
特にここ5年は、自分のモチベーションも高かったので、技術も向上し、高い評価もたくさん受けましたね。自分の技術や味が世界のトレンドとなる瞬間を経験することが出来ました。そして、その集大成が今回のWPTCだったのです。

WPTCを終えた今、私はコンクールを卒業し、「楽しむお菓子」に専念しています。
前と技術は変わっていませんが、WPTCから帰ってお店でやりだしたのが、クラシックなやり方にこだわること。本来、世界を舞台にする、となると斬新なスタイルを予想されるでしょう。
実際、コンクールに出始めたころはそうでした。しかし、最新、先端を目指し続けてきたからこそ、本当に美味しいものを作るための技術はクラシックなやり方にあることがわかりました。
時間をかけて、手間暇かけて、1つ1つ丁寧に作り上げるお菓子。フランス菓子の根本はそこにあると思います。

手づくりのあたたかみ、丁寧に作る心。万人に愛される味。ホンモノの味。
私がこれから目指すべきものです。
戦いは終わりました。次は平和を作り上げる番ですから。■

Text by Eri Kadono


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