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「クリエイティブなことが好きだった。そして、人を楽しませることが好きだったから」。
パティシエになるきっかけを、Dazieはこう語る。特に、強い思いや野心があったわけではない。幼い頃から、お菓子に親しみ、食べることが大好きで、「8歳のときから、祖母と一緒にブラック・ラム・ケーキやスイート・ブレッドなどを作っていた」という彼にとって、パティシエを夢見ることは、自然な流れだったのかもしれない。

パティシエになりたい。その思いは、時が経つにつれ強いものとなり、高校を卒業と同時に、New York City College of Technologyで、本格的にパティシエになる勉強を始めるようになる。人に喜ばれるケーキ、人を驚かせ、楽しませるケーキを作ることを目標にしてきたDazie。しかし、在学中、ピエスモンテ(工芸菓子)と出会ったことで、コンクールというこれまでと違う、もう一つの夢を追いかけるようになる。
みんなに美味しいと感じてもらえるお菓子を作りたい。そして、人を魅了する芸術作品をお菓子で作りたい。そのどちらか一方を極めるのも、想像しがたい苦労が伴うだろう。しかし、天はDazieに「味」と「芸術性」という二物を与えた。
米国で開催される様々なコンテストに出展しては、受賞を重ね、着実にその名を広げていくようになる。そして昨年、第17回全米ペイストリーコンペティションへ出展。結果は3位。上位入賞を果たすも、彼の満足のいく結果にはならなかった。

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全米ペイストリーコンペティション。
このアメリカを代表するこのコンペティションは、他の類とは一線を画すものなのだ。それは、このコンペに課せられたいくつもの厳しいルールから伺えるだろう。
まず、ピエスモンテ全体において、チョコレートと飴細工/シュガーの割合が同じでなければならない。これは、単純に飴細工やチョコレート工芸を作ることに比べ技術、知識を要する。アメとチョコレートといった異なった素材を結合させるのは、アメとアメ、といった同じもの同士を結合させるよりはるかに難しいことは、素人でも想像がつく。
その他にも、「ピエスを支えるパーツは食用のものでなければならない」、「8インチ(約20センチ)のオリジナルケーキを提出する」などのルールがある。

さらに、ショーピースの採点は、飴細工とチョコレート工芸、そしてケーキの味から。いずれもポイント制であり、ケーキの味が45ポイント、ピエスモンテのアート性45ポイント、そしてテクニックが30ポイントの計120ポイントが満点として評価される。
ケーキはスポンサーであるカカオ・ノエルおよびラビフルーツピューレを使用したオリジナルレシピで競われる。ケーキはその味はもちろん、テクスチャーや創造性も採点の際の大きなポイントとなる。

テクスチャーや創造性。Dazieの昨年度の敗因は、そこにあった。「ピエスやケーキの味は完璧だった。しかし、テクスチャーに問題があった」のだという。何か1つが秀でていれば取れる、というものではない。勝ち抜くには、全てにおいて、頂点を極めなければならない。それが、全米ペイストリーコンペティションの厳しさである。

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昨年度出展したピエスのパーツ


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今年のファイナリストとして選ばれたのは、22名のペイストリーシェフ。いずれも全米を代表する面々だ。
Dazieの2度目の挑戦が始まった。
戦いは、コンペの始まる前からスタートする。参加者は、会場にパーツを持ち込み、制限時間3時間の中でピエスモンテを完成させるのが決まり。遠方からはるばる参加するファイナリストも多い中、移動中にパーツが壊れてしまっているピエスモンテもある。アメリカは日本の25倍の国土をもつので、移動するだけでも一苦労なのだ。

持ち込みまでは順調だったDazie。しかし、悲劇は起こる。組み立ての最中、持参した電子レンジが壊れてしまったのだ。電子レンジは、アメをやわらかくしたり、チョコレートを溶かしたりするのに欠くことの出来ない、ピエスモンテ作成にはなくてはならない道具なのだ。「壊れた瞬間は、本当に途方に暮れたよ。もう作れない、と。しかし、アシスタントがレストラン&フードショー内で調理器具を販売していた業者に交渉して借りて来てくれた。それでどうにか乗り越えることができたんだ」。

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ハプニングに見舞われながらも、作品は無事に完成した。
葉の上で休むトンボや蝶を狙うイグアナ、オウム、ピエスの頂上にはチーターが構えている。今にも動き出しそうな、その力強さ、躍動感は、まさに今回のテーマである「レインフォレスト(熱帯雨林)」に潜む生き物たちの姿を見事に表現し、観客や審査員など見る者全てを魅了した。

「このコンペティションに向け、自分のルーツでもあるギニアに行き、本物の熱帯雨林を観察してきました。自分が見た熱帯雨林をそのまま作品に投影したかった。ギニアの森の中で見た鳥や蝶、大いなる自然にたくさんアイディアをもらいました」。
ピエスに飾られたイグアナはまるで生きているように精巧につくられている。もちろんこれも食用だ。シュガーを使い、スプレーペイントで立体感を出した。「イグアナは、トイザらスでみつけたイグアナのおもちゃを型に作り上げた。ピエスに飾るには大きすぎたから、胴の部分を短く切って…」と、枠に囚われない自由な発想も大きな勝因となったのだろう。

そして、22名の競合を勝ち抜き、Dazieは、見事チャンピオンに選ばれることとなった。
彼のピエスモンテは、アート性で高い評価を受けただけでなく、ケーキの味のポイントでもトップを飾った。バニラ風味のムースとビターチョコレートのムースに、ラズベリーとパッションフルーツのピュレを合わせ、レモン・バニラのマカロンを組み合わせた。「このピエスの中で最も気をつけたのが、ケーキだった。だから、最高得点を取れたのはとても嬉しかったよ。酸味と苦味のバランスには特に注意したんだ」と語るDazieの顔は、昨年のリベンジを果たしたという、自信と満足の笑顔で溢れていた。

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輝かしい受賞歴を持ち、シュガークラフトでギネス記録を作るなど、常に挑戦することを続けていくEbow Dazie。
今回の全米コンペティションでの優勝は、彼の更なる飛躍を感じさせるとともに、米国フードシーンの新たな扉が開かれる瞬間となった。
アフリカ系のパティシエが優勝した。
この事実が意味するものは大きい。人種のサラダボールといわれるアメリカであっても、まだまだ「人種差別」という名の壁は高い。普通の人よりも何倍にも高く聳える壁を、25歳の若者が乗り越えたのだ。

技術や知識はもちろん、強い精神力と思いがなければ、決して到達できない頂点だっただろう。彼を奮い立たせ、思いを支えたものは何だったのか。
4つのD。それが、Ebow Dazieの持つ信念である。
「Determination (決断力)、Discipline(練習)、Desire(情熱)、そしてDedication(専念)。学生時代、陸上をしていた時にコーチから教わったこの言葉が今でも僕を支えている」。

現在、Dazieは2010年に行われるワールド・ペイストリー・チーム・チャンピオンシップ(WPTC)へ参戦することを目標としている。WPTCは2年毎、偶数年に開催され、今年は、代表チームを選出する大会、ナショナル・ペイストリー・チャンピオンシップが開催される。「今回、賞を取ったことで、WPTC参加の第1ステップであるナショナル・ペイストリー・チャンピオンシップでのチームリーダーになることができる。WPTCでは、チームワークが最重要項目だから、これから2年間ゆっくり時間をかけて、パートナーを見つけていきたいと思うよ」。

Text by Rie Tange

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